■ガイド 真土トンネル跡


 和歌山線は現在、全線にわたってトンネルはないが、開業当初は隅田駅の東方にトンネルがあった。これは真土トンネルといって、全長は243メートルあったが、老巧化によって支障を生じるようになっため、戦後まもなくトンネル部を迂回するルートの現在線に切り替えられた経緯がある。

線路跡
隅田駅東方の旧線跡(左の地道)。その突き当たりに真土トンネル跡がある  

 この真土トンネル跡に行くには、隅田の駅を下車し、駅の南側の道を東方向に進むとよい。駅構内端の小さな踏切があるあたりから、現在線の北側を進んでいたのが廃棄された旧線が辿っていたルートである。旧線とは多少描くラインがずれているものの、廃線跡は小さな道となっており、この先の小さな山に真土トンネルの坑門がぽっかりと口を開けているのが見える。トンネルの内部に立ち入ることはできないが、施工年次を感じさせる煉瓦積みのなかなか風格あるトンネルである。

 一方の王寺口は、現在線に隣接するようにして坑門がある。現在線の線路を横切らないといけないような場所なので、すぐ前に行くことはできないが、こちらも雑草に埋まりかけながらも美しい煉瓦積みの姿を今に残している。

橋梁跡
真土トンネル王寺口は現在線に隣接して残る  

 余談ながら、隅田駅と真土トンネル跡の間にある落合川はなんの変哲もない川に見えるが、実は奈良県と和歌山県の県境をなしている川である。それは明治以降だけでなく、古くから落合川のラインが国境であった。

 これは、この川が深い谷を刻んでいたためで、古代からの道は現在の国道24号線がそうであるように、落合川を渡るところだけは、吉野川〜紀ノ川沿いをはずれて山側に入り、谷の浅い地点を通っていた。

 この架橋地点にある集落が、トンネル名の由来ともなった真土集落である。この、一見なんてことはない場所は、国境であることや、「待つ」に通じる響きが好まれて、実は万葉以来、多くの歌人に詠まれた知られざる名所でもある。



■和歌山線貨物線・旧線あとがき

 和歌山線の辿っているルート自体は、実はこんなにローカル線化するほど悪い経路ではない。それは並行国道が意外なほど若番であること(24)や、京奈和自動車道が建設されつつあることからも明らかである。それなのに、特に国鉄時代に冷遇され、長い間近代化から取り残されてきたことが、この線の存在価値を落としてしまった。

 電化こそなされたけれど、その電化も国鉄末期になされた五条〜和歌山間に至っては、直吊式といって通常上下2本ある架線を1本だけにした、チンチン電車の架線に毛の生えたようなものでしかない。また、それ以前に電化がなされた区間でも、下宇智のスイッチバックなぞはそれほど勾配はきつくないので、中央線でなされたように登坂力のある電車の乗り入れと共に駅構内を改修してスイッチバック解消をしても不思議でないのに、未だに列車は無駄な時間を使って前後退を行っている。

 また、列車の運転本数は近年増えたものの、五条に鉄道部という管轄部署が置かれているせいか、昼間の下り列車は五条で13分ほど停車するなど、客車時代ならまだしも現代では信じられないほどのポーズをおいている。実質は五条で運転系統が切れており、いわば本社からの末端管理区間にありがちな不便な状態であるといえる。

五新線
五條市内の古い家並のなかに建つ五新線の高架橋(H地点)。  
手前の吉野川にぶちあたるところでいったん途切れている  

 昔は東京からの寝台直通列車や、南海線からの食堂車併結列車が走っていたとは、夢のような話である。こんな事実を目の当たりにすると、もし五条〜和歌山間の旧紀和鉄道部分だけでも当初の予定通り南海と合併していたら、今頃どうなっていただろうかと思ってしまう。おそらく高野線と有機的にリンクして、電化もずっと早くなされ、もしかしたら粉河〜和歌山市間くらいは複線化もなされていたかもしれない。その結果、沿線だけでなく、和歌山市をも含めて、いろんな面が今よりもっともっと発展していたかもしれない。和歌山線が国有になってよかったことといえば、貨物輸送の面で粉河付近がミカン産地として栄えたことくらいしかない。

 無責任な廃線跡ウオーカーの戯言ではあるが、一度離れてしまった住民の鉄道に対する関心を再び惹きつけるのは容易でないだけに、今後の和歌山線の驚異的な発展は難しいように思え、素材は悪くないだけにもったいないように感じてしまうのである。

 なお、川端への貨物線跡からほど近いところに、あの悪名高き五新線の高架橋跡が残っている(G〜H地点)。さすがに、吉野川の南側の築堤は一部崩され始めているが、市街地の中の高架橋の方は未だ手つかずのままで、歴史的景観を誇る古い町並みに、無愛想なコンクリートのミスマッチを描いている。

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