■ガイド 高島町〜近江今津間


 近江高島駅の北方にある湖西線の右カーブの外側に、いきなり明らかな江若の築堤の跡が見えてくる(I地点)。この築堤跡も同様に右カーブをしながら、途中に小さな橋台を残しているが、再び湖西線と合流するあたりにユニークな痕跡がある。というのは、天井川と人道を一度に跨いでいる湖西線の小田川橋梁の真下に、お互いに反対を向いた一対分の橋台が残っているのである。江若が2つの小さな橋梁を連続して架けていたところに、湖西線がそれらを一気に越す橋梁を架けたため、江若の橋台のうち、真ん中の部分が破壊されずに残ったようだ。

近江高島築堤跡
近江高島北方の湖西線の右カーブの外側に 
残る築堤跡。左側に並行している湖西線の 
ものよりかなり低いこともよくわかる。手前に 
見えているのは小さな橋台である(I地点)  
橋梁下の橋台
湖西線の橋梁の真下にある江若の小さな 
橋台跡。江若の廃線跡は、カーブ半径を緩和 
した湖西線とこのあたりで合流していることが、 
お互いの角度の違いにより一目瞭然(J地点) 

 この先の、枯れた天井川に架かる湖西線の橋梁の下にも、江若の橋台が眠っているが、基本的に廃線跡は湖西線に使われてしまっているので、そのほかの遺物は見あたらない。江若の安曇川橋梁も、橋脚の数が45もある江若最長の鉄橋であったが、今は湖西線の無骨なコンクリート橋があるだけで、どこにも跡はない。

 この付近の湖西線は、ルート的にはほぼ江若の線路敷に敷かれている反面、駅は全て江若時代のものが反映されていないのが興味深い。引き続き駅が設置されたのは安曇川(江若の開通時は安曇)と新旭(同・新儀)だが、駅名は継承しているものの、場所は少し移動した。そして、水尾、饗庭(あいば)、北饗庭の各駅は、短い駅間距離が嫌われたのか、湖西線には作られなかった。同じ湖西線であっても、できるだけ江若の駅を継承した形となっている和邇〜北小松間とは対照的である。

饗庭駅跡
農業倉庫群でそれとわかる饗庭駅跡。 
周りの静けさは、この地に駅があった 
ことを忘れさせるかのよう。右は湖西線 

 このあたりの江若時代の駅跡のうち、今でも比較的その跡がわかりやすいのは、旧・新旭駅跡と饗庭駅跡である。

 江若の新旭駅跡は、湖西線の新旭駅から見ると、約500メートルほど山科方にあたる。ここには汽船バス、及びタクシーの営業所がある。昔は駅前の一等地だったであろうが、今では目の前を通る湖西線はただの中間地点であるため、えらく中途半端な場所に営業所がある格好となっている。

 また饗庭駅跡には、いかにも駅跡らしい空き地のまわりに古い農協の倉庫群が建ち並んでおり、江若が走っていた頃は、周辺の物資がここに集められて、各地に発送されたであろうことを想像させる(もっとも末期にはここでの貨物取り扱いは廃されていたが)。

 湖西線の下に埋もれる江若の廃線跡は、北饗庭駅跡付近で少しだけ湖西線の東側に一般道として顔を出した後、近江今津の電車留置線の手前付近になって、湖西線から左に大きく離れていく。ここでの廃線跡は、道路にもならずに築堤として少し続いて、小さな川を渡るところに橋台を残している。

 この先の道路を辿っていくと、Aコープ今津店がある。北へ進むため、町外れに駅を設けた湖西線の近江今津駅とは存外離れているが、ここが江若の近江今津駅跡であり、その一部は今津西町のバス停になっている。そして、三角屋根が印象的なJA旅行センターの建物こそが、旧近江今津駅舎である。



■江若鉄道あとがき

 江若の貨物輸送は戦後一貫して減少を続けたものの、最後まで全線1往復の貨物列車が残っていた。この江若の貨物列車を通すため、旧東海道線でもある京阪石山坂本線の膳所〜浜大津間で、広軌・狭軌3線式の線路を用いて、国鉄が連絡貨物運輸を行っていた。(詳しい経緯は東海道線旧線の項参照)一時期は江若の旅客列車も一日2往復ほど膳所まで乗り入れていたが、この3線式軌条も江若の廃止とともに想い出となった。

 江若鉄道が、湖西地方と大津の中心地・浜大津を結んでいたのに対し、湖西線は大津の中心を通ることなしに直接県外の京都・大阪方面に乗り入れるコースをとったことは、その後の人の流れに多大な影響を及ぼすこととなった。首都圏の「埼玉都民」のごとく、沿線には多くの「滋賀府民」が居住することになったのである。

 過去の出来事に「たら」や「れば」は禁物と言われるが、もし湖西線の建設が実現せずに江若鉄道がそのまま運行を続けていたらどうなったであろうか。沿線の人口増に対応して、赤字が続いていた江若が、電化あるいは複線化などの投資をなし得たであろうか。また沿線住民に「滋賀府民」がこれほど増えたであろうか。

 どうでもいいことかもしれないけれど、そんな余計な興味は尽きない。鉄道は地域社会とともにあることを再認識されられるのである。

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